写真:株式会社フィットネススポーツ
2016年3月3〜6日、アメリカ・オハイオ州コロンバスにて、アーノルド・シュワルツェネッガーが主催する世界最大級のスポーツフェスティバル『Arnold Sports Festival 2016(アーノルド・スポーツ・フェスティバル)』が開催された。
この祭典で開催される多くの競技のうち、ボディビルのアマチュア選手が出場する「Arnold Amateure Bodybuilding(アーノルド・アマチュア・ボディビル)」という大会がある。
今回、この大会の「メンズボディビル・ライトミドル級(80kg以下級)」に、公益社団法人JBBFから派遣された日本代表選手の一人として、ゴールドジムのマスタートレーナーを務める、鈴木雅(すずき まさし)選手が挑み、日本人として初優勝を果たした。
鈴木選手は、ボディビルの日本大会である日本選手権で、2009年から現在に至るまで異例の6連覇を成し遂げており、今年2016年10月に開催される同大会においても記録更新が期待されている。
日頃から多くのトレーニング誌に取り上げられており、恐らくボディビル界で彼を知らない人は存在しないのではないだろうか。しかしながら、トレーニング誌を見たことがない、もしくはボディビルという競技を知らない方々からすれば、彼を知らないという人がいても不思議ではない。
なぜなら、手軽に情報を入手できるとされているネットで、鈴木選手の情報が少なく、様々な推測が飛び交っているのだ。
そこで、フィジーク・オンラインが先陣を切って、ネットの世界では謎のベールに包まれている鈴木選手に緊急インタビューを行った。
今回は、アーノルド・アマチュア・ボディビルで優勝を手にするまでの道のりをお伺いすると共に、ボディビルという競技について、ご自身の考え方や想いを熱く語っていただいた。
アーノルドに向けての調整方法
― 昨年11月に行われた世界選手権では、見事3位を獲得しましたが、世界選手権を終えたあとから3月のアーノルドの大会までどのように調整しましたか?
まず、食事についてですが、いきなり、炭水化物や脂質を増やすのではなく、少しずつ炭水化物を増やすことで、体をその代謝に慣れさせていきました。
個人的な感覚として体脂肪が変わらず、高いカロリーの状態で調整ができると、皮膚感がとても良くなるんです。
例えば、減量してそのまま出るとボテっとした感じに見えてしまうことがあるんですけど、逆に一度落としてから少しずつカロリーを戻していくと、皮膚に張りが出て、質感の良い体になりやすいんです。
そのことを前々から分かっていたので、世界選手権が終わってから少しずつ炭水化物を増やしていきましたので、特に調整らしい調整はしていません。
あとは、元々減量するのが辛いと感じるタイプではないので、そのへんは楽でしたね。逆に何を食べてもあまり太らなくなりました。
― 日々のトレーニングについてはいかがでしょうか。
特に大幅に変えた点はありませんが、国際大会となると海外選手に負けないような、とにかく目立つような体になることが重要です。
意識して取り組んだのは、腹筋周り、いわゆるミッドセクションですね。特に、胸の下から腹筋周り、あとは脚の上のセパレートをしっかり出し、筋肉がハッキリと割れた形を出せるようにトレーニングしてきました。
― 鈴木選手のようなトップクラスの選手には愚問かもしれませんが、モチベーションに関してはいかがでしょうか。
そうですね、自分はモチベーションでトレーニングすることはないです(笑)。
恐らくトップクラスの選手はみんなそうだと思うんですけど、モチベーションで上げたり下げたりするようなものではなくて、どれだけトレーニングの質を高めていくかということに重点を置きます。
確かに、日常的なモチベーションはありますよね。トレーニングしたくないと思うこともあるんですけど、トレーニングは“やらなければいけないもの”だと思っています。
ですが、日常的なものとして、「やりたくないな」と思うのは体に悪いので、最終的に自分の体をどうしたいのかということが目標なので、そこを考えてやっています。
ですが、今回アーノルドで優勝したんですけど、あまり実感が湧かないというか・・・でも実際は嬉しいんですよ。だけど、そんなに実感が湧かないんですよね。
恐らくその理由って、自分では「まだまだ細いな」とか、「ここの部分はこの選手に追いついていないな」というところが凄く目についたからだと思うんです。だから、今後はそういった課題に向けて取り組もうと考えています。
― 目標としている選手がいるのですね?
そうですね。出ている選手は凄い選手ばかりなので、「ああいう風になりたい」と思う選手もいます。そして、それぞれ国の代表者として国際大会に出場されているので、レべルの高い選手は多いです。
出国から大会当日までの現地での過ごし方
― 国外の大会に出場された経験が豊富ですが、国内の大会と違う点で意識していることはありますか。まずは、機内での過ごし方についてはいかがでしょうか。
やっぱり食事ですよね。いわゆる糖尿病患者向けの食事を機内で頼むんですけど、それだけで足りるわけではないので、なるべく自分で作って持って行きます。
例えば、鶏肉などをミキサーに入れて、ハンバーグのようなものを作り、それを冷凍して徐々に解凍させます。ただ、作って持って行くにも、日本から距離が離れている国は日数がかかりますので、そこは臨機応変に考えます。
食べ物は、いかに“いつも食べているもの”を“食べられる状況を上手く作る”ことが大切です。ただ、絶対にいつもの状況とは異なるので、あまり神経質にならないことですね。なるべくその場で対処できるものでしっかり補うということになります。
なので、プロテインは意識して、いつも摂っている時間に摂ります。
― 機内は同じ体勢でいる時間が長いと思いますが、むくみは気になりませんか?
減量が上手くいっていたり、食べ物や水分を摂りすぎなければ、意外とむくむことはありません。今回は、利尿作用のあるお茶を利用しました。
これは、パーソナルトレーナーである渡辺実さんのオススメなんですけど、利尿作用のあるお茶をたくさん飲むことで、老廃物と一緒に排出するようにしていたので、全くむくまなかったですね。
― 現地到着後、コンテスト当日までどのように過ごしましたか?
持って行くものが重要なんです。検量に関していうと、自分は80kg級に出るのですが、最終的に81.5〜82kgくらいは残ってしまう形になります。
現地に、サウナがあるのかどうか、気候は寒いのか暑いのか、というように、毎回状況がそれぞれ異なります。今回のアメリカ・オハイオ州にあるコロンバスは雪が残っていて、とても寒い地域でしたので、なるべく着て汗のかけるようなものを持って行きました。
食事に関しても、ホテルにレンジがあるのか分からないので、自分でケトルやクッカーを持って行きます。そして、近くにスーパーがない場合があるので、餅やお米など、なるべく自分で食べられるものも持って行きます。餅はクッカーでアレンジができるのでとても便利です。
今回は近くにスーパーがありました。アメリカのスーパーだと、日本のスーパーよりも大きくて物がたくさんあるので楽しいですよね(笑)。
― コンテスト直前に、現地でトレーニングは行うのですか?
大会前は休むようにしているので、あまり考えずに過ごしました。ただ、現地に着いて一番厄介なのが時差です。特にアメリカだと日本から距離があるため時差ボケします。
そのため、いつも最初に現地ですることは、体を少し動かすことです。血液循環を良くして、いわゆる交感神経や副交感神経を高めること。そして、ストレッチをすると比較的、副交感神経も働きやすくなるので、着いたら疲れない程度にウォーキングをします。
ただ、実を言うと今回は時差ボケが酷くてできませんでした(笑)。夜の20〜21時に寝て、夜中の1時頃に起きてずっと起きているような感じでした。
― それは大変でしたね。身体に影響はありませんでしたか?
でも早いよりはいいんですよね。要するにボケて、昼間がすごく眠くなったりするとむくむんですよ。時間によって、寝ないとかなりむくむので、寝やすい環境というのも必要ですね。なので、メラトニンも持って行きます。
― コンテスト直前の現地では、どのような思いで過ごしたのでしょうか。
自分のペースをしっかり守ることを意識しました。空港に入ると他の選手もチラホラ見かけるので、その時点でエンジンがかかるんですよ。「あぁ〜来たな」って感じで。
空港から会場近くに向かうと尚更そのように感じ、私も初めの頃はそうだったんですけど、開放的もしくはナイーブになりやすいんですよね。
あと、バフェのような形式の食堂があるんですけど、もちろん他国の選手と一緒になります。アーノルドの時は、自分で食材を調達したんですけど、他の選手も同じ場所で食べたりしているので、他の選手に合わせないことですね。
でも、日本代表としてチームで行動しているので、行動はちゃんと合わせる。食事は自分のペースを守るということです。
― 行動は自分中心になりすぎず、かつ自分のペースを守るというのは難しいですね。
やっぱり流されちゃいますよね(笑)。でも、自分のペースを持つことが大切ですが、わがままにならないということも大切です。日本代表としてチームで来ているので、自分一人ではなく、日本代表として来ていると自覚しなければいけません。
そこは、品格とかそういうことも関係してきますよね。民度というのも国によって全然違いますし、素行が悪いとその国が悪く見えてしまうこともありますよね。
日本って「サムライ魂」というものがあって、例えばマナーが良いとかルールを守るとか、そういうことが凄く良いとされている文化なので、逆にそのへんはそういう気持ちを持ってやっていきたいですよね。