― 今後ボディビル・フィットネス競技を拡げるための課題はありますか?
私は新しく出来た種目やスポーツには全て難しさがあると思います。もともと陸上や水泳などその他の種目でも、徐々に拡がってきたと思うんですよ。
そのように、ボディビルも1946年にIFBBが誕生して70年ですからね。70年経てば、時代や社会と共に試行錯誤もあっただろうし、特に女性のボディビル(現在:ウィメンズフィジーク)は試行錯誤しました。女性が男性と同じ評価基準で筋肉の逞しさを競うというのは、本来無理があったと思いました。
― 近年、若い女性もウェイトトレーニングをする人が増えてきましたが、それについてどのように思いますか?
大いに良いことだと思います。ただ、無理なく正しくウェイトトレーニングを行って欲しいです。恐らく、自分の職業に活かすという意味でウェイトトレーニングをしている方もいると思いますが、ウェイトトレーニングを行うことによってスポーツというものの素晴らしさ、そして本来のボディビル(Body Building:体をつくる)というものの奥深さを味わって欲しいです。
肉体を鍛えると言うことは、生命の本質であり、人間にとって欠かすことのできないものです。それは肉体と精神という不即不離のものですから、肉体と精神が調和したものにまで深めて欲しいですね。
要するに、ファッション的な見かけのカッコ良さもいいですが、そこに留まらず、より深く知っていただきたいです。初めは気軽にやればいいんですよ。やらないよりはいいんだから。(笑)
― 今後ボディビル・フィットネス競技がオリンピック種目になるための課題は?
世界連盟ラファエル・サントンハ会長と「ボディビルをなんとしても将来オリンピックに入れようじゃないか」と話をしています。そのため何をやらなければいけないかというと、まずはボディビル界からドーピングを絶無すること。ドーピングをなくさなければ、オリンピックなんて夢のまた夢ですよ。
まだまだボディビルは完全にクリーンではないのが現実ですし、他のスポーツ界からも一般の社会からも、もしかしたらボディビル選手はみんなドーピングをしているのではないかと誤解されています。これを完全にクリーンにし、大会で一人も陽性者を出さないこと。私はこれが第一だと思っています。
ボディビルダーは本能的に身体を大きくしたいという欲望があるので、本来は体重制限のあるクラシックがいいんですよ。しかし、自分が競技者になったら美的センスや教養を磨き、何が人間としての美しさかということが分かってきます。すると、自ずとインチキや誤魔化しをしなくなりますよ。
アーノルド・シュワルツェネッガーは綺麗でカッコイイと言われているけれど、彼は自分でも告白していますがドーピング経験者であり、それが原因で心臓を悪くしました。
ところが面白い話があって、スティーブ・リーブスが晩年アーノルドに「ボディビル界からドーピングを撲滅しなければダメだ。そうしないと、我々がこうして命がけで追ってきたスポーツの価値観がなくなる。そのためには、君と僕が二人で手を組んでアンチドーピングの撲滅運動をやろうじゃないか。」という手紙があるんだよ。
それでアーノルドが、「大賛成です。ぜひやりましょう。」と言ったのですが、スティーブは70代で亡くなってしまいました。
それから、これだけアンチドーピングが騒がれていても、結局検査に引っ掛かって陽性反応の人が出る。それだけスポーツが普及して、スポーツ産業も盛んになり、金が動く世界になってきているからこそ、金の誘惑をもって一位になることが多いわけですよ。
それともう一つは、ドーピングのそもそもの起こりは、冷戦構造に関係しています。自由主義社会と共産主義社会の頃、国の発展のためにみんなメダルを取りたいわけです。だからこそ国がらみで選手たちにやらせたんですよ。
だけどボディビルの世界選手権大会等で、一人も陽性反応を出していない国は日本なんですよ。国内では、稀に陽性反応という結果が出る人はいますが世界では出していません。
だから今の日本のトップビルダーはそういう点においては、スポーツマンシップというものをしっかりと身に着けていてモラル感もある。日本人は倫理観が高いですよ。
だから、日本人選手はなぜドーピングをする人がいないのか?とよく尋ねられます。そんな時、私は「日本には武士道があるんだ」と言いますけどね。武士道というのは、ただ勝てばいいというものではなくて、人間としてのルールを守ってやるのが武士道だと。道ならぬことをしてはいけないんだよと。だから、Mr.玉利はサムライだって言われますよ(笑)
そして、もし仮にボディビル・フィットネスの競技がオリンピックの種目になるとしたら、男子はクラシックボディビル、女性はフィットネスがいいと思います。
なぜかというと、ボディビルは身体を見て凄いなと思われるけど、あの身体では身軽に動けないんじゃないかと言う人もいます。しかし、ボディビルダー並みに筋肉が発達していないとできない動きもありますから、フィットネスで体操選手にも負けない動き見せることができると思いますよ。
例えば、フィギュアスケートには、競技点と芸術点があるでしょ?ボディビルだって、先ほどお話した通り、野獣のたくましさだけでなく芸術性がなければいけません。
文化は見せ物ではありません。見せ物は、ただ単に刺激を感じさせることですが、文化というのは、人の人生に本当の意味で活力を与えたり、安らぎを与えたり、心を動かされたり、豊かにしたり、人間性にはたらきかけます。
ボディビルはそういうものとして伸ばさないと我々が一生かけて打ち込む意味がないと思います。
― 選手を育成する指導者を増やすためにはどのような対策が必要でしょうか?
今までの指導者は、自身がボディビルダーである人が多く、個人ジム(JBBF加盟ジム)の経営者も自己満足的になっています。今や全国におよそ2,000軒のフィットネスクラブがあるのに、フィットネスクラブではボディビルの真の効用を理解しているところは僅かです。
その理由は、ボディビル側でもただ自己顕示だけでやるような人が多いからです。だから一般の健康づくりのためにフィットネスクラブを利用しに来ている人にとっては、「ああいう人がいると邪魔になる」と見られてしまう。
本来は、ボディビルをフィットネスクラブで排除してはいけないんです。彼らはボディメイクのエキスパートですからね。上手くやれば、鈴木くんや田代くん、小沼くんだって、ゴールドジムの中で一般のボディビルダーでない人たちからも憧れを抱かれ、魅力的な存在となっています。
だから指導者として、ある程度経済規模の大きいフィットネスクラブにも積極的に取り込んでいかないといけません。個人ジムとは経営規模が違いますから。
フィットネスクラブの経営者もボディビルを知らない人が多く、一種の特殊なマッチョマンたちの力む世界だと思われているからね。
でも、今言ったことが定着してきたら、自分の経営するフィットネスクラブの会員が増え、その会員が定着する。こんなに良いことはないじゃないですか。そういう動きをこれから進めていこうと思っています。