美容と健康を追究すると、DNA検査へ行き着く
小野寺 生尾さん、お久しぶりです!と言っても、昨年12月のSPORTECでお会いしてますが、最近は展示会の会場でお目にかかるときが多いですね。初めてお会いしたのはN.A.gene株式会社で運営しているバタフライライフのスタッフ研修に関わらせて頂いた時でしたね。
生尾 そうでしたね。体質をつくる遺伝子に興味を持って、遺伝子検査を医療から健康づくりに役立てようとして当時大学院生だった社長の名嶋が12年前に設立した会社に飛び込んだんです。ちょうどバタフライライフを設立するタイミングで、スタッフへの指導などいろんなことをしていました。
小野寺 最近はヘルスケア目的の遺伝子検査サービスがベンチャーから大手企業まで含めて数多くなってきましたね。
生尾 はい。遺伝子検査はブームになりつつあると思っていますが、私たちは当時から自分の体質を知って体の状態をよくしていくためにどうすればいいのかを伝えていく一つの良いツールとして考えています。やはり、ある程度きちんと運動しないと良い効果はでませんし、なんとかするダイエットはNGだと思っています。ほんと、形だけでは違うよって、悪く言うわけではないですが一部のホットヨガなんてサウナじゃないのって(笑)。
小野寺 おっと、早々に熱くなってきましたね(笑)。確かに単に汗をかくのと、運動をした結果として汗をかくのは違いますね。ましてや、見た目や健康状態をよくするには目的にあった適切な方法が必要だと思います。
生尾 ヨガは宝塚時代に叩き込まれた基盤があるのですが、一般的な筋トレも同じで、バタフライライフや他の現場でも結果を出している人はやっぱり相応の努力をしています。カウンセリングをしても体の軸ができていないのがすぐ分かるんです。頭でトレーニングするのと体に叩き込むのは違うというのを伝えていきたい。一般の人に語りかけるので、ストイックにやるではなく、面白おかしく楽しく美容に引っ掛けたりしています。でも、普通の女性はすぐにムキムキになっちゃうとか言い出すんですけど、ならないからって(笑)。
小野寺 健康や体型を良くすることを目的とすると一般的にはフィットネスクラブですが、日本のフィットネスクラブへの参加率は1990年代からほぼ3%のままであまり変わらない状態が続いていますね。
生尾 フィットネスクラブでトレーニングの良さを伝えきれてなくて、多くの人にとってお風呂とかサウナになっているんだと思うんです。でも最近は変わってきているかもしれません。24時間年中無休タイプのジム型クラブが日本に入ってきた時はどうかと思ったんですけど、想像以上に成功しているのを見ると変わってきたかなと。
小野寺 エニタイムフィットネスの日本への導入に始まって、ジョイフィットやティップネスが続いて今は多くのクラブがジム型の展開をしていますね。私のところにもごく初期から話がきているんですけどみなさん好調なようです。でも、基本的に既にトレーニングのやり方を身につけている人が、近所でいつでも利用できて一般的な総合型クラブより安価な施設に流れている、または辞めてしまった人を活性化しているのだと思います。実際に商圏は500mで設定しているところがほとんどで、あとは立地勝負かなと。新たな業態ではありますけど、新たなフィットネス人口を増やしている業態ではなさそうですね。
生尾 今の一般的なフィットネスクラブのスタッフは、経験の豊富な社員の方か自分で稼がれているパーソナルトレーナーぐらいしか本当に効果的なトレーニング方法が分かってないのではないかと感じています。私は宝塚時代にウェイトトレーニングと出会ったのですが、宝塚では体調が悪い時に休まないで動くんです。ストレッチをしたり、泳いだりなどで、私の場合はウェイトマシンで調子が良くなったんです。そういう経験もあって自分の体は自分でケアをしないといけないだろうという気持ちがあるのかもしれません。痛いから休みなさいじゃない、痛いならきちんと体を起こしてあげようよ、という気持ちです。
小野寺 なるほど、経験の裏付けがあるんですね。年齢が若いうちは体調の悪さもごまかせるところがありますが、年齢を重ねると同じ年でも差が大きくなってくると感じています。
生尾 体調というわけではないですが、同じ年齢の方でも特に姿勢の違いに目がつきます。姿勢を作っているのはやっぱり筋力なんです。そのことに自分で気付いて何か変わったなと実感するのが大切なんですけど、他人からいいと評価されると運動だと気づくんです。例えば、運動を始めてからしばらくして、和服を着た時の姿勢が良くなったと他人から褒められたり、みたいなことなんです。そのためには、知らず知らずに強くなる仕掛けが必要で、腹筋やるよだと「いやだ」になっちゃいますけど、ボールを使ってそこに意識させながら目的の腹筋に効かせる、そして運動した後で実は腹筋の運動なんだよと伝えるんです。
小野寺 宝塚時代に初めてウェイトトレーニングと出会ったとのことですが、どんな馴れ初めだったんですか(笑)。
生尾 (笑)。マシンを初めて触ったのは20歳ぐらい、最初はパーソナルトレーナーにみてもらったんです。その時、感がいいですねと言われたんですが、当時はなんのことかよく分からなかった。30歳を過ぎたぐらいで自分の体の使い方を見直してみようとしたときにクラシックバレエとマシンを使っている時と同じ体の使い方をしているのに気がついたんです。
小野寺 バレエと筋トレが同じ体の使い方ですか。アーノルドシュワルツェネッガーが現役時代にボディビルの大会に備えてバレエのレッスンを受けているという写真入りの記事を読んだことがあります。ステージ上での表現力云々という内容だったと記憶していますが、意思でコントロールして体を動かすという点ではトップレベルは同じなのかもしれませんね。運動は確かに体に良い効果を及ぼしますが、効果を得るには続けなくてはなりません。運動をしてこなかった人たちが運動を続けてもらうにはどうするとよいでしょうか。
生尾 大手スポーツアパレルメーカーでダンスなどのレッスンを長年続けて教えているんですけど、女性のOLの方が多くいます。とても忙しい方々なのですが、駆け込んできて他に参加されている人たちといろんな情報共有をしているんです。こういうコミュニティを作り出すことが大切なんじゃないかと考えています。これは、会員の年齢やお仕事などは違うんですけど、バタフライライフでも同じです。バタフライライフでは測定やカウンセリングを定期的に行っていて、その時に家族の話で旦那の愚痴なんかをお話しになって最終的にだから私は太っちゃうと。会員の方々同士で自分たちで想像している体に関係しそうなことを話し合えるコミュニティが生まれているんです。
小野寺 領域は違うんですけど、介護予防フィットネスと銘打って運動中心の介護サービスを展開している事業者と国立長寿医療研究センターで行われている介護予防の効果検証プロジェクトを4年ほど支援しているんですよ。ここでも利用者が仲良くなってカラオケに行くようになったりとか、利用者同士のコミュニティが作られるようになっているんです。今回の介護報酬改定でも主要な課題となっているのが高齢者の社会参加なんですが、こういったことも重要な指標になるかもしれません。ダイエット/シェイプアップや介護予防といった共通目的で定期的に集まることから、コミュニティが生まれ、仲間意識が生まれてくる。仲間がいるから運動を続けることができて、効果を得られるのではないかとも想像しています。
生尾 社会参加という点では、宝塚時代に行った社会活動も印象深い思い出です。宝塚は音楽学校と劇団で分かれているのですが、孤児院の子供達を呼んで、音楽学校生がショーをするんです。宝塚に入るのは本当に我欲で、自分が入りたい、自分がステージに立ちたいという自分の欲望で一杯なんですけど、こんなに喜んでもらえるんだという気づきがありました。孤児院の子供達は素直ですごく幸せな顔をしてくれるんです。当時は16歳だったのですが、自分のしていることが他人のためになるとわかった最初の機会でした。いま、他人に楽しんでもらうのはなんだろう?と考えた時に、私はバレエや歌や演じることなどを学んできたのでそれを活かしていこうと。
小野寺 生尾さんの基盤になっているのは宝塚のご経験のようですね。
生尾 宝塚での経験が中心なのは間違いありませんが、子供の頃からいろいろな芸事をしているんです。歌とか日本舞踊とかクラシックバレエとか水泳とか、それが劇団に入って、声を出すなどがプラスされ、人に見せる、人に見られるという所作が大切になってきました。いろいろな芸事の共通基盤が軸なんです。一般社会に出てから姿勢の良さに気づいた、人に気づかせてもらったんですけど、私がわかっている軸はなんだろう?その軸を伝えるために、華道・茶道・タップダンス、などなど同じなんですけど、どうしたら軸を伝えられるのか試行錯誤しています。
宝塚音楽学校に入学してすぐ、自衛隊に短期間の体験入隊をしたんです、そして、いきなり匍匐前進(笑)。匍匐前進で軸がないとふにゃふにゃしてしまいます。こういった、いろいろな経験が後になって繋がってきて、他人に伝える価値があると気がついたんです。他人の役に立ちたい。宝塚の経験を伝えて、体づくりに繋がっていることを示す。例えば、どうしてそんなに姿勢がいいんですか?トレーニングだよ、と(笑)。それに加えて今は遺伝子というツールを使って、あなたにはこういう方法で体質改善をしていこうと伝えていっています。
小野寺 今後、遺伝子検査サービスはどのような展開を考えておられるのでしょうか。
生尾 一昨年の8月までは企業へのコンサルティング業務が中心だったのですが、その後は遺伝子検査のパッケージをエステ、フィットネスクラブ、接骨院様に販売するようになりました。特にエステ業界は流行り物が中心なので、逆にエステ業界で定着できれば本物といえると考えています。
現在、約3,000を超えるサロンと60ディーラーが登録しています。そして、今のところフィットネスクラブにはあまり売ろうとは考えていません。それよりも、パーソナルトレーナーにご紹介して、パーソナルトレーナーが遺伝子検査ツールを使って顧客と信頼関係を得ている姿をみせることで広げていきたいと考えています。
極端なことを言うと私の分身となるようなパーソナルトレーナーを作りたいと思っています。遺伝子検査を通して自分の体質を知って、そういう生まれ持った体をもらったあなたの着地点はここだよと伝える。運動を続けられない人に運動をしない場合と運動をする場合の道を示すんです。遺伝子検査は心を動かすツールで、あなたはなぜ運動を頑張らなければいけないのか、あなたはなぜ食事に気をつけなければいけないのか、という動機付けを与えるのが遺伝子検査です。
小野寺 確かに単に遺伝子検査をして、その結果を見て、だから何なの?ってなってしまいますよね。その結果から、その人に本当に役立つサービスなり物販なりにつなげていくのは事業の方向性の一つですね。
生尾 私は行き着く先は健康、それもピンピンコロリだと思っています。東日本大震災以後に40代、50代の人の意識が変わったと感じています。津波が来た時に逃げられないと嫌だから体を鍛えるという人がでてきました。目の前のきれいや達成感や自己満足ではなくてピンピンコロリを実現できる手助けをしていきたい。そのために、人の力、集っている方々を中心とする人の力が大切で、そういう空間を作り上げるのがうまいと思っているのが実はカーブスさんです。
小野寺 たしかにカーブスさんの場作りは上手ですね。カーブスの増本社長は自分たちのサービス市場をフィットネスとは捉えていなくて、健康体操だとおっしゃっていました。店舗の作りも外観を含めてそうなっていますね。
生尾 私たちも遺伝子検査を通じて運動することのメリットをわかりやすく伝えて、フィットネスクラブに参加していない97%を引っ張ってきたいと考えています。一般の人には私たちが当たり前にできることが伝わらないことが多いんです。腹式呼吸も伝わりませんし、力を入れると抜くという感覚も無い人も大勢います。私のダンスのクラスの生徒さん達に、レッスンに慣れてきたらフィットネスクラブに行ってごらん、マシンを触ってみてと誘導をするんです。興味のある運動である程度体を使えるようになってからマシンを使うと体の動かし方がわかるので効果的なトレーニングができるようになります。
小野寺 トレーニング経験をもう少し詳しく教えていただけますか。
生尾 実は私、今より15キロ以上太ってしまってトレーニングをして体を変えた経験があるんです。
小野寺 15キロ以上太られている姿は想像できませんね!
生尾 宝塚を退団した後、芸能事務所に所属してマッスルミュージカルに出ていたことがあるんです。宝塚では、朝はフルーツで夜はみんなと焼肉といった感じで自然といい食生活だったのですが、退団してからは自己管理でよくわからなかったんですね。マッスルミュージカルの時に+7キロ、それを減らそうと完全な糖質抜きダイエットで5キロ減ったんですが、1年後に鉄欠乏性貧血になったのでカロリーは気にしながら糖質を普通に摂るようにしたら有酸素運動はしていたのにリバウンドで+15キロ(笑)。運動しても太るし、食べなくても太る、質の問題だと気がついたんです。太りすぎが原因で芸能事務所も解雇状態になって2ヶ月間のフリーター生活で、怒りのベクトルが自分の努力不足から自分の体質に向かったんです。これは自分の体のせいだ、体の設計図だ、設計図はDNAだと考えて、その時にN.A.geneの存在を知って自分からアプローチしてバタフライライフの立ち上げスタッフとして入社したのが健康に関係するお仕事との出会いなんです。
小野寺 なるほど、そこにつながるんだ!生尾さんは自分の経験を客観的にとらえて事業につなげておられるようですね。
生尾 私が経験してきた芸事を健康として伝えられることがあるはずです。もっと言えば、例えば言葉の抑揚は狂言を通して学ぶのですが、目や瞳孔を開いたり閉じたりする訓練もします。抑揚や呼吸の使い方がわかってくると表現力が変わってきます。これはトレーニングでも同じ経験ができるんです。私自身、マシントレーニングでお腹に力を入れることができるようになって声が出るようになりました。
小野寺 東西を問わず昔から続いている身体技法で鍵となっているポイントは同じなのではないかと思いますね。今までの経験が1本に連なって、体づくりを通した健康支援という仕事に生かされているのは素晴らしいですね。
生尾 実家が料理屋をやっているのですが、入社後に1年間抜けて女将業の修行をしていたことがあります。その時に、いろんな人と関わる楽しさと人への奉仕の喜びを感じて、改めて、自分がやるべきことは飲食店ではなくて自分がやってきたことを伝える人間だと気づいたんです。
小野寺 生尾さんの女将姿を拝見したかったです(笑)。初めてお会いした時から、生尾さんは会員の方々などに運動を通した体づくり健康づくりを伝えて、良くなっていかれていることに満面の笑みを浮かべておられたと記憶していますが、女将業を経験されたのは初めてお会いする前のことですか?
生尾 タイミング的には小野寺さんとお会いした後ですね。女将を経験する前から自分の眼の前にいるひとを変えてあげようという気持ちはあったのですが、自分から発信することはなく、1対1のコミュニケーションが中心でした。でも飲食の経験をしてから視野が広がって、お客様に振り向いてもらうためにはどうすればいいのだろうかということをもっと考えるようになりました。それが楽しくて、ダメでもまたいく(笑)。いま、いろいろなメディアを通して筋トレでキレイな体を作る運動方法を発信しているのも、多くの人のきっかけづくりになればいいなと考えてのことなんです。世界が違って見える機会をもっと作っていきたいと考えています。
小野寺 芸事からわかる綺麗な体の作り方をテーマに面白いサービスを作れそうですね!今日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。