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- 飯沼誠司(いいぬま・せいじ)
ライフセービング競技日本代表監督
2010年ライフセービング競技世界大会にてSERC競技において銀メダル獲得
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- インタビュアー:吉田真人(よしだ・まこと)
国内外の大会で活躍したトップボディビルダーで、1999年にはボディビルの本場アメリカで開催されたNPCエメラルドカップで優勝、ゲストポーザートしても国内外で人気を博した。現役時代から後進の指導にも熱心で、多くのトップ選手を輩出している。また、日本とグアムを結ぶスポーツ競技の国際交流イベント“日本グアム親善大会”を立案、
コーディネートするなど、トレーニング業界の活性化の為に多岐に渡り活躍している。
― 飯沼さんはライフセービングがご専門でいらっしゃるということですが、どれくらい前からやられているのですか?
大学に入ってからなので、もう20年以上になります。
― 『ライフセービング』と一口に言っても色々な活動をされていると思うのですが、その内容を教えてください。
根本にあるものは勿論「人命救助」です。そして、救助力を高めるための競技、競技会のためのトレーニング。後進を育てる教育。これら全てをひっくるめたものがライフセービングの活動と言えます。
ライフセービングはオーストラリアでは100年近い歴史がありますが、日本では協会が統合されて30年と経っていないこともあり、まだまだ歴史が浅く、全国的に普及しているとは言い難い状況です。
しかしながら、四方を海に囲まれている国として、近年ライフセービングが重要視されるようになって来ており、私も普及に努めるための活動をしています。
― 競技会にはどのような種目があるのですか?
海で行うものだけで20種類以上の種目があります。一般的に知名度の高いもので言うと、ビーチ・フラッグスなども正式な種目の一つですし、あとは、ひたすら泳ぐレースだったり、カヤックを漕ぐレースだったり、パドリングをするレースなどもあります。
世界大会基準のレースは比較的短い距離で行うことが多いのですが、プロの大会やパドリングだけに特化したレースなどは、かなり長い距離で行うこともあります。また、サーファーに近い人たちが出場する大会もあれば、トライアスロンのような体力勝負の大会もあり、非常に幅広いです。
中でもオーシャンマンという競技は「泳ぐ・走る・パドル・カヤック」という4つの種目を行うもので、文字通り「鉄人」を意味しています。ライフセービング競技の中でも一番花形のレースなのですが、私は海外で開催されるこのオーシャンマンレースに参戦して、賞金を貰い、スポンサーをつけることで「プロのライフセーバー」と呼ばれるようになりました。
現在もスポンサーこそついていますが、私自身は競技に出てはおらず、指導者としての活動がメインです。なので、現役時代に比べるとかなり体力も落ちました。レスキューの時もパドルボードではなく、水上オートバイを使っているくらいですから(笑)
― やはり相当体力が必要になってくるものなのでしょうね。
そうですね。やはり実際の救助を想定しているものですから、かなりの体力と、当然それを身につけるためのトレーニングが必要になります。
例えば、沢山のお客さんでごったがえす夏場の海水浴場であっても、ライフセーバーは限られた人数しかいません。もしそういう時に海で事故が起きて、救助が必要になった場合、ライフセーバーが浜辺を全力で1km走り、海を全力で200m泳いで、沈んでいる人を引き上げなければならない、ということも十分想定出来ます。
さらにそこからCPR(心肺蘇生法)を施さなければいけないという時、ライフセーバー自身の心拍が上がっている状態では、当然人工呼吸も出来ませんよね。しかも、救急車が到着するまで、10分間はCPRを続けなければいけないかも知れない。
もし、そこで命を助けることが出来なければ、トレーニングをしてこなかったことを後悔するでしょう。実際に私自身も悔しい思いを沢山経験しているので、後輩たちにはもしもの時に確実に命を救える最低限の体力を身に付けるためのトレーニングを、絶えず続けて欲しいと思っています。
しかしながら、トレーニングのモチベーションを保つのもなかなか難しいものです。事故というのは突然起きるものですが、逆に言えばそう頻繁に起きないので、どうしても緊張感が薄れてしまいがちになります。ライフセービングの競技会が催されるのは、ライフセーバーの緊張感を高め、トレーニングのモチベーションを保つためでもあるのです。競技会のためのトレーニングで培ったことは、実際の救助でも勿論大いに役立ちます。
私も大学に入ってライフセービングを始めたばかりの時は、不謹慎ながら「早く事故が起きないかな」くらいに思っていました。というのも、それ以前に競泳をやっていたので、自分の泳ぎにはかなりの自信がありましたし、物凄い量のトレーニングをするのに、その成果を活かす場所が全然ないと感じていたからです。
しかし、ライフセービングを続けて、沢山の事故を目の当たりにすることで、緊張感も増してきましたし、監視に立つことに恐怖すら感じるようになりました。また年齢と共に体力も落ちてきますが、それを出来るだけ維持しつつ、同時に体力を補う技術も身に付けてバランスを取っているというのが現状です。
現在はライフセービング競技のナショナルチームで監督を務めているので、どうしても指導する側に立つのがメインになってしまいますが、この先何年か監督としてきちんとチームを引っ張った後は、後輩に現在のポジションを譲り、また選手としてライフセービングの競技会に出たいと思っています。
ともあれ、何より一番のモチベーションは「海が大好き」ということですね。現在は都内と館山の二つの拠点を行ったり来たりしている、言わば二重生活なのですが、都会で受けたストレスを館山の自然に触れて発散することで、バランスを保っています。
また、なかなか海にも行けないという時は、都内のプールで水泳の練習をしたり、ランニングをしたり、ジムに行ってトレーニングをしたりしています。
泳ぐ・走るだけではない。ライフセーバーの気になるトレーニング方法とは?続きは PHYSIQUE MAGAZEINE 006号をチェック! |